漆が固まらないときは ― 原因は湿度・油分・厚みの3つ

「手順どおりに進めたのに、何日たっても漆がべたついたまま」。本漆金継ぎで最も多いつまずきが、この漆の硬化不良です。原因はほぼ決まっており、対処もできます。

大前提:漆は「乾く」のではなく「固まる」

ここを取り違えていると、何をしても状況は改善しません。

ペンキやニスは、溶剤が蒸発することで乾きます。だから風通しのよい乾燥した場所が適しています。漆はまったく逆です。漆は空気中の水分を取り込む化学反応によって硬化します。

つまり、乾燥した場所に置くほど固まりません。天気の良い日に窓辺で乾かす、エアコンの効いた部屋に置く。どちらも逆効果です。

原因1:湿度が足りない

最も多い原因です。漆の硬化には湿度が必要で、そのために伝統的に使われてきたのが漆風呂と呼ばれる戸棚です。湿気を保った空間に器を入れて寝かせます。

自宅では、段ボール箱で十分に代用できます。ポイントは3つです。

  • 小さめの箱を選ぶ ― 大きすぎると内部の湿度が上がりません
  • プラスチック製の容器は避ける ― 湿気がこもりすぎます。適度に湿気が逃げる段ボールが向いています
  • 濡らした布を一緒に入れる ― 器に触れないように配置します

特に冬場の暖房が効いた室内は極端に乾燥します。「夏はうまくいったのに冬は固まらない」という場合、原因はほぼこれです。

原因2:油分が付いている

漆は油分と相性が悪く、油の付いた面では硬化しません。

意外に見落とされがちなのが、直す器そのものです。使っていた食器であれば、目に見えなくても油分が残っていることがあります。作業前によく洗い、しっかり乾かしてください。

手指の皮脂も同様です。素手で断面に触れないよう、手袋を着けて作業してください。

なお、この性質は逆に利用できます。漆かぶれの対策として、作業前に肌にサラダ油などを塗っておくと有効です。漆が肌に付いてしまった場合も、まず油をよくなじませてから石鹸で洗い流します。いきなり石鹸で洗うより効果的です。

原因3:厚く塗りすぎている

漆は表面から硬化が進むため、一度に厚く塗ると内側がいつまでも固まりません。「早く仕上げたいから一度に厚く」は、かえって遠回りになります。

欠けが深い場合は、複数回に分けて埋めるのが正しい手順です。深さ1mmを超えるようであれば2回に分け、1回目が硬化してから残りを重ねます。さらに深い欠けには、木粉を混ぜた刻苧漆を使います。

それでも固まらないときは

上の3点を確認しても改善しない場合、漆自体の劣化が考えられます。漆には使用期限があります。開封後は空気に触れる面を減らし、冷暗所で保管してください。冷蔵庫での保管も可能です。

簡易金継ぎでは事情が違います

ここまでは天然の漆の話です。簡易金継ぎで使う陶器用樹脂は、湿度ではなく2液の化学反応で硬化します。漆風呂は必要ありません。

簡易金継ぎで硬化がうまくいかない場合、原因はほぼ混ぜ方です。A液とB液を同量、均一になるまでよく練ってください。練りが足りないと硬化が中途半端になり、ボロボロと欠ける原因になります。

また、混ぜた樹脂には作業できる時間の限りがあります。硬化が始まって塗りにくくなったら、無理に使わず作り直してください。錆うるし(樹脂+砥の粉)が硬くなった場合は、テレピン油を1~2滴加えて粘度を戻す方法もあります。


漆が固まらないという現象は、失敗ではなく条件が整っていないというサインです。湿度、油分、厚み。この3つを確認すれば、ほとんどの場合は解決します。

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